営業管理をExcelで続ける限界は?共有と履歴から見直す5つのサイン
営業会議で「今月決まりそうな案件は何件ありますか」と確認したところ、営業担当者ごとに違う数字が出てくる。
共有フォルダには複数の案件管理ファイルがあり、どれが最新版か分からない。ようやくファイルを一つにまとめても、誰かが行や数式を消してしまい、元の状態へ戻せない。
このような状態になると、「そろそろExcelでの営業管理は限界ではないか」と感じる経営者や営業責任者も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、Excelで営業管理を続けるうえで最も重要なのは、表の作り方よりも「共有」です。
営業担当者がそれぞれ自分のパソコンへファイルを保存している状態では、会社として案件を管理できません。まず、一つの管理表を関係者が確認できる場所へ置き、同じ情報を見られる状態にする必要があります。
ただし、共有すればすべて解決するわけではありません。
複数人が編集できる状態にすると、必要な行や数式の誤削除、入力規則の変更、意図しない上書きなどが起こる可能性があります。そのため、「全員が同じ情報を確認できること」と「変更内容を確認し、必要に応じて復元できること」をセットで考えなければなりません。
Microsoft 365のExcelを使う場合は、ファイルをOneDriveまたはSharePointへ保存することで、過去の版を確認・復元できるバージョン履歴を利用できます。Microsoftによるバージョン履歴の説明
Googleスプレッドシートでも、誰がいつ変更したかをバージョン履歴で確認し、以前の状態へ戻せます。Googleによる変更履歴の説明
Excelを続けられるかどうかは、表の行数だけでは決まりません。共有場所、編集権限、変更履歴、入力方法を含めて、会社として安全に運用できるかが判断基準になります。
営業管理を見直したい5つのサイン
1.担当者ごとに別のファイルを持っている
営業管理を見直す最初のサインは、営業担当者ごとに異なるファイルを持っていることです。
- ファイルをメールやチャットで送り合っている
- ファイル名に「最新版」「最終」「最終2」が付いている
- 会議前に複数のファイルを一つへまとめている
- 退職者のパソコンに過去の案件情報が残っている
- 外出先から案件状況を確認できない
これではExcelを使っていても、会社の営業管理表にはなっていません。
最初に行うべきことは、CRMへの移行ではなく、営業管理表の保存場所を一つに決めることです。
ただし、「全員が使えること」と「全員がすべてを変更できること」は同じではありません。保存場所と一緒に、閲覧だけの人、案件情報を入力する人、表の構造や数式を変更できる人を決めます。
2.共有した結果、誤削除や上書きが起きている
複数人で一つの表を使うと、入力場所を間違えたり、必要な行や列を削除したりすることがあります。
共有するときは、少なくとも次の点を決めます。
- 閲覧者と編集者をどう分けるか
- 数式や集計欄を誰が変更できるか
- 入力してよい列をどのように示すか
- 誤削除した場合に誰が復元するか
- 変更履歴をどのように確認するか
- バックアップや復元が実際に機能するか
必要な情報は共有しながら、壊してはいけない部分は保護することが重要です。
3.案件の経緯を担当者に聞かないと分からない
Excelに顧客名、金額、受注確度だけが書かれていても、営業活動の引き継ぎには十分ではありません。
顧客が何に困っているのか、どのような提案をしたのか、見積提出後の反応はどうだったか、次にいつ連絡するのか。このような情報を担当者へ聞かなければ分からない場合、営業情報が属人化しています。
すべての会話を細かく記録する必要はありません。まずは「現在の状況」「顧客の課題」「次の行動」「次回予定」の4点を残すだけでも、ほかの人が案件を理解しやすくなります。
4.集計や営業会議の準備に時間がかかる
営業会議の前に、複数のExcelを集め、数字をコピーし、会議用の資料へ貼り付けている場合、営業活動を管理するための時間が、資料を作るための時間に変わっています。
特に、次のような作業が毎回発生している場合は見直しが必要です。
- 担当者ごとのExcelを一つにまとめる
- 会議用ファイルへ数字を転記する
- 顧客名や案件名の表記を直す
- 重複している案件を削除する
- 売上予定月ごとに集計する
- 入力漏れを担当者へ確認する
ただし、元になる情報の入力方法が統一されていなければ、関数やマクロを増やしても安定した集計はできません。自動化の前に、誰が、いつ、どの情報を更新するのかをそろえます。
5.売上見込みを正確に把握できない
営業管理の目的は、きれいな一覧表を作ることではありません。経営者や営業責任者が今後の売上見込みを把握し、必要な行動を判断できる状態を作ることです。
受注確度を細かいパーセントで入力しても、担当者ごとに判断基準が違えば正確な予測にはなりません。
例えば、営業の段階を次のように分け、各段階へ進む条件を決めます。
- 問い合わせを受けた
- 顧客の課題を確認した
- 提案・見積書を提出した
- 顧客が社内で検討している
- 発注意思を確認した
- 受注または失注が確定した
担当者の感覚ではなく、確認できた事実をもとに進捗を判断できることが重要です。
ExcelとCRMの間にも改善方法がある
営業管理を改善するとき、Excelの次に必ずCRMやSFAを導入しなければならないわけではありません。
現在の管理表を残しながら、入力画面や内部処理だけを改善する方法もあります。
Google Forms・Microsoft Formsで入力画面を分ける
共有表を直接編集させると、行や数式の誤削除が起こりやすくなります。
そこで、営業担当者はフォームから情報を入力し、回答を管理表へ蓄積する方法があります。
例えば、新しい問い合わせ、商談結果、見積提出日、次回連絡予定、受注・失注、失注理由などをフォームで報告します。必須項目や選択肢をあらかじめ設定できるため、入力方法も統一できます。
Microsoft Formsの回答はExcelで確認でき、作成方法によって回答データを保存するブックはOneDriveまたはSharePointに置かれます。Microsoft FormsとExcelの連携
この方法は情報の「追加」に向いています。一方、登録済み案件の担当者、見込み金額、次回予定などを繰り返し更新する運用には工夫が必要です。単純なフォームだけでは、既存案件を探して編集する操作が難しいためです。
マクロやGASで内部処理を改善する
入力した情報の転記、集計、通知に時間がかかる場合は、ExcelのマクロやGoogle Apps Script(GAS)で処理を自動化できます。
- フォームの回答を案件一覧へ反映する
- 受注案件を売上一覧へ転記する
- 次回予定日を過ぎた案件を抽出する
- 更新されていない案件を担当者へ通知する
- 担当者別や進捗別の集計表を作る
- 会議用の一覧や定型報告書を作る
現在のExcelやスプレッドシートを活かしながら手作業を減らせることが利点です。
ただし、作った人しか修正できない状態にすると、新しい属人化が生まれます。何を自動化しているか、どの操作で動くか、エラー時に何を確認するか、誰が修正できるかを記録しておく必要があります。
AppSheetで入力・編集・出力を高度化する
フォームでは新規登録はできても、既存案件の検索や編集が難しいことがあります。一方、共有表をそのまま使わせると、誤削除や数式の上書きが心配です。
この中間を埋める選択肢として、AppSheetなどのノーコード・ローコードツールがあります。
AppSheetでは、スプレッドシートなどをデータ元として、用途に応じた入力・閲覧・編集画面を作れます。フォーム画面だけでなく、一覧、詳細、グラフ、ダッシュボードなども設定できます。AppSheetのアプリ設計
例えば、次のような営業管理画面を作れます。
- 自分が担当する案件だけを表示する
- 顧客名や案件名から検索する
- 商談後に進捗と次回予定を更新する
- 管理者だけが受注確度や金額を変更する
- 期限を過ぎた案件を一覧表示する
- スマートフォンから訪問結果を入力する
- 担当者別の案件状況を表示する
- 条件に応じて通知や帳票作成を行う
表を直接編集させず、利用者ごとに必要な画面と操作を用意できることが利点です。
ただし、データの構造、利用者ごとの権限、編集できる項目、通知条件などの設計は必要です。利用する機能や契約内容によって費用も発生するため、対象人数と改善効果を確認して導入します。
CRM・SFAへ移行する
顧客、担当者、案件、商談履歴、見積書、予定などを関連付け、複数の部署で継続的に利用する場合は、CRMやSFAが候補になります。
特に次のような会社では、表計算ソフトを拡張し続けるより、専用ツールを検討した方がよい場合があります。
- 顧客一社に複数の案件がある
- 一つの案件に複数の担当者が関わる
- 問い合わせから受注後まで履歴を残したい
- 営業担当者や案件数が増えている
- 部署や拠点をまたいで情報を共有したい
- メールや予定も案件と関連付けたい
- 表計算ソフトの改修と維持に時間がかかっている
判断基準は、CRMの方が高機能だからではありません。
Excel、Forms、マクロ、GAS、AppSheetなどを組み合わせた仕組みを維持する負担と、CRMを導入・運用する負担のどちらが合理的かで判断します。
改善方法を選ぶ判断表
現在の課題 | 最初に検討する方法 | 理由 |
|---|---|---|
担当者ごとに別ファイルを持っている | OneDrive、SharePoint、Google Driveなどで一元共有 | まず全員が同じ情報を見る必要がある |
誤削除や上書きが心配 | 権限設定、保護、バージョン履歴 | 共有と復元を両立するため |
入力方法が人によって違う | Google Forms、Microsoft Forms | 入力項目と選択肢を統一できる |
転記や集計に時間がかかる | マクロ、GAS | 定型処理を自動化できる |
既存案件を検索・編集したい | AppSheetなど | 表を直接触らず、用途別の画面を作れる |
顧客・案件・活動履歴が複雑 | CRM、SFA | 関連する情報を組織的に管理しやすい |
何を管理すべきか決まっていない | 業務と管理項目の整理 | ツールを先に入れても定着しない |
小さく見直すための進め方
営業管理の見直しは、すべての情報を一度に移行する必要はありません。まず現在進行中の案件だけを対象に、次の順番で試します。
- 現在使っているExcelや営業資料を集める
- 会社として使う管理表と保存場所を一つに決める
- 閲覧・入力・設計変更の権限を分ける
- 営業の進捗段階と最低限の入力項目を決める
- 数名の担当者で一定期間試す
- 営業会議で実際に情報を使う
- 誤操作、入力負担、集計負担を確認する
- Forms、マクロ・GAS、AppSheet、CRMの必要性を判断する
大切なのは、営業担当者に入力させることではありません。入力した情報が、案件の支援、対応漏れの防止、売上見込みの確認などに実際に使われる状態を作ることです。
自社で対応できる場合と外部へ相談したい場合
営業管理の項目や進捗段階を社内で決められ、共有場所と権限管理にも問題がなければ、自社で改善できます。
一方、管理ファイルが多く全体像が分からない、どの情報を残すべきか判断できない、自動化した仕組みを保守できる人がいない、CRMを比較する前に業務を整理したいという場合は、外部支援を利用した方が進めやすいことがあります。
FP Supportersでは、特定のツールを入れることからではなく、現在の営業業務と情報の流れを確認するところから支援します。
Excelを安全に共有すれば十分なのか、入力画面や自動化が必要なのか、専用のCRMへ移行すべきなのかを整理し、実際の運用へつなげることを重視しています。
まとめ
営業管理にExcelを使っているからといって、すぐにCRMやSFAへ変更する必要はありません。
最初に確認したいのは、営業管理表を会社として共有できているかです。
担当者ごとに異なるファイルを持っている場合は、保存場所を一つにまとめ、全員が同じ情報を確認できる状態を作ります。ただし、共有すると誤削除や上書きのリスクも生まれます。
そのため、営業管理をExcelで続ける場合は、次の点をセットで整えます。
- 保存場所を一つにする
- 閲覧者と編集者を分ける
- 数式や表の構造を保護する
- 誰が変更したか確認できるようにする
- 誤った変更を復元できるようにする
- 入力と更新のルールを決める
入力時に表を壊してしまう場合は、Google FormsやMicrosoft Formsで入力画面を分ける方法があります。転記、集計、通知に時間がかかる場合は、マクロやGASによる自動化が候補になります。
フォームでは対応しにくい既存データの検索や編集、利用者ごとの画面や権限が必要な場合は、AppSheetなどによるアプリ化を検討できます。顧客、案件、活動履歴が複雑になり、複数の部署で継続的に利用する段階では、CRMやSFAが選択肢になります。
営業管理の改善は、「Excelをやめるか、続けるか」の二択ではありません。
共有と履歴管理を土台として、入力画面、内部処理、利用者ごとの操作画面を必要な範囲で段階的に整えることが重要です。